GNSSの代替 — もしGNSSが使えなくなったら
妨害・遮蔽・障害でGNSSが頼れないとき、位置と時刻をどう確保するか。「強靭なPNT」への入口
なぜ「代替」を考えるのか — GNSSの弱点
GNSSはとても便利ですが、万能ではありません。信号が極端に微弱(地上で約−130dBm、dBのページ)なため、さまざまな理由で使えなくなります。社会インフラの時刻同期までGNSSに依存している今、「GNSSが無いときどうするか」は重要な問いです。
妨害・偽装に弱い
微弱な信号は簡単にジャミング/スプーフィングできる。安全保障上の弱点。
屋内・地下に届かない
建物・トンネル・地下街では衛星が見えず測位できない。
都市峡谷でのマルチパス
ビル街では反射で誤差が増え、可視衛星も減る。
宇宙天気・電離層
太陽フレアや電離層擾乱で精度が落ちる/途絶することがある。
単一障害点
1つのシステムに全社会が依存=そこが落ちると広範囲に波及。
PNTという考え方 — GNSSは手段のひとつ
私たちが本当に欲しいのは「GPS」そのものではなく、PNT — Positioning(位置)・Navigation(航法)・Timing(時刻)です。GNSSはPNTを実現する一つの手段にすぎません。だから発想を変えて、複数の手段を組み合わせて途切れさせないのが「強靭なPNT(Resilient PNT)」「補完的PNT(Complementary PNT)」という考え方です。
P — Positioning
自分が空間のどこにいるか(緯度・経度・高さ)。
N — Navigation
どちらへどれだけ動いているか(速度・方位)。
T — Timing
正確な時刻・周波数。通信・電力・金融の土台。
代替手段は「GNSSを完全に置き換える」ものばかりではありません。多くはGNSSを補完し、途切れた瞬間をつなぐ(バックアップ)役割です。GNSSと組み合わせて使うのが基本です。
代替手段のカタログ
このSTEPでは、代表的な代替・補完手段を1つずつ見ていきます。
ひと目で比較
| 手段 | 位置 | 時刻 | 屋内 | 妨害耐性 | 自立性※ | ひとこと |
|---|---|---|---|---|---|---|
| GNSS | ◎ | ◎ | ✕ | 弱 | 高 | 基準。ただし微弱で妨害に弱い |
| LEO-PNT | ◎ | ○ | △ | 強 | 高 | 信号が強く妨害に強い。整備が進行中 |
| 慣性航法(INS) | △ | ✕ | ◎ | 最強 | 完全自立 | 電波不要。ただし時間とともに誤差が蓄積 |
| 地上系(eLoran) | △ | ◎ | △ | 強 | 中 | 強力な地上波。広域の時刻バックアップ |
| 環境標定(VPS) | ○ | ✕ | ◎ | 強 | 中 | 屋内・都市に強い。地図が要る |
| 信号機会(SoOP) | △ | △ | △ | 強 | 中 | 既存電波を流用。研究段階 |
※自立性=外部インフラ(衛星・基地局・地図)にどれだけ依存せず単独で動けるか。◎○△✕は教材向けのおおまかな目安で、実装や条件で変わります。実際はこれらを組み合わせて使い、GNSSが途切れても位置と時刻を保ちます。