慣性航法(INS / IMU)

電波を一切使わず、自分の動きを積算して位置を知る。GNSS途絶時の“最後の砦”

電波なしで位置がわかる — 推測航法

慣性航法(INS: Inertial Navigation System)は、加速度計(どれだけ加速したか)とジャイロ(どれだけ回ったか)だけで自分の位置・速度・姿勢を割り出します。これらのセンサーをまとめた装置が IMU(Inertial Measurement Unit)です。スタート地点さえ分かっていれば、あとは動きを足し算していくだけ——電波も衛星も基地局もいりません。

⬆ 加速度計

加速度を測り、1回積分で速度、もう1回積分で移動距離になる。

🌀 ジャイロ

回転(角速度)を測り、積分で「今どちらを向いているか(姿勢)」がわかる。

最大の長所は完全自立。外から電波を受けないので、ジャミングもスプーフィングも原理的に効きません(脅威のページ)。潜水艦・航空機・ミサイル・ロケットが昔から使ってきた、由緒ある航法です。

弱点はドリフト — 時間とともに誤差が育つ

完全自立の代償がドリフトです。加速度を2回も積分するので、センサーのわずかな偏り(バイアス)が時間の2乗で位置誤差に膨らみます。GNSSが切れてから何もしないでいると、誤差はどんどん育っていきます。センサーの“格”(グレード)でその速さは桁違い。下のスライダーで、GNSS途絶からの経過時間を動かしてみましょう。

GNSS途絶からの経過: 1分

位置誤差 ≈ ½ × 加速度バイアス × 時間²、という簡略モデル(教材用の代表値)。実際はジャイロ誤差や重力の誤投影も効き、もっと複雑に増えます。要点は「安いセンサーほど、あっという間にズレる」こと。

IMUのグレード

グレードセンサー例ドリフトの目安用途
民生(MEMS)スマホ・車の小型MEMS数分でkm級(1分で約100m)歩行者・車の短時間の穴埋め、姿勢制御
戦術級高性能MEMS / FOG1時間で数km級車載・ドローン・精密農機
航法級光ファイバ(FOG) / リングレーザ(RLG)1時間で約2km(≈1海里/時)航空機・潜水艦・船舶

FOG=Fiber Optic Gyro、RLG=Ring Laser Gyro。高精度なほど大きく高価になります。スマホのIMUはとても安価な代わり、単独では数十秒でずれていきます。

だからGNSSと組む — GNSS/INS統合

INSは短時間はとても正確だが長時間でずれる。GNSSは長時間ずれないが一瞬でも遮られると使えない。この2つは弱点が正反対なので、組み合わせると最強になります。GNSSが見えている間にINSの誤差を較正し続け、トンネルやビル街・妨害でGNSSが切れたら、較正済みのINSが数秒〜数分の穴を滑らかに埋める——これが多くのカーナビ・スマホ・自動運転が実際にやっていることです。

GNSSがある間

位置の真値でINSのバイアスやドリフトを推定・補正(カルマンフィルタ)。

GNSSが切れた瞬間

直前まで較正されたINSが推測航法を継続。短い遮蔽なら誤差はごくわずか。

カーナビがトンネルでも位置を保てるのは、この統合とタイヤの回転(オドメトリ)などの助けによるものです。GNSSの代替(概要)も参照。