ジャミング・スプーフィング・ミーコニング

GNSSを騙す3つの脅威 — 受信機に何が起きるか、そしてどう見破るか

⚠ このページの立場: ここで扱うのは「攻撃をどう検知し、どう守るか」です。GNSS帯の電波を空間に出す行為(妨害・偽信号の送信)は日本の電波法違反であり、他人の受信機を欺けば犯罪です。実験は必ず有線+減衰器またはシールドボックス内で、自分の機器に対してのみ行ってください(SDRでGNSS送信参照)。

ジャミング

JAMMING — 妨害
妨害源✕ 聞こえない

強い雑音や妨害波でGNSS帯を埋め、信号を雑音に埋もれさせる。受信機は衛星を見失う。

難易度 (安価な違法ジャマーが存在)
狙い 測位させない
症状 全衛星のC/N₀が同時に低下 → 測位不能

スプーフィング

SPOOFING — 偽装
偽の送信源偽の位置を信じる

本物そっくりの偽の衛星信号を生成して送り込み、受信機に嘘の位置・時刻を信じ込ませる。

難易度 (信号生成と同期が必要)
狙い 誤った位置・時刻を信じさせる
症状 正常に見えるのに位置が飛ぶ

ミーコニング

MEACONING — 再放送
遅延 Δt で再放送 受信点A受信機

別の場所で受けた本物の信号をそのまま遅らせて再放送する。信号自体は本物なので偽物と見分けにくい。

難易度 (受信+増幅+再放射だけ)
狙い 受信機を「別の場所・過去の時刻」に
症状 再放送アンテナの位置に収束

受信機はどう見えるか — 攻撃シミュレーター

状況:

受信機が表示する衛星ごとのC/N₀(u-centerの棒グラフに相当)。青=GPS、赤=QZSS、紫=偽信号。

受信機が報告する位置(○)と真の位置(+)。

妨害波の強さ J/S 30 dB

見分け方まとめ — 症状から攻撃を推定する

ジャミングスプーフィングミーコニング
C/N₀全衛星が同時に低下、やがて消失不自然に高く・全衛星が揃った値本物由来なのでばらつきは自然
AGC強い入力を検知して利得が大きく下がるやや下がるやや下がる
位置測位不能(解が出ない)任意の場所へ。ジャンプまたは徐々に移動再放送アンテナの位置に収束
時刻失われる攻撃者の任意(過去にも飛ばせる)遅延ぶんだけ必ず遅れる
到来方向1方向(妨害源)1方向(送信源)1方向(再放送源)
決め手雑音レベル上昇+一斉低下位置/時刻の不連続、複数システム間の不一致、認証失敗全衛星に共通の余分な遅延、位置が動かない

共通して強力なのは「到来方向がひとつ」という点。本物の衛星は空のあちこちから来るのに、攻撃信号は1本のアンテナから来る — 複数アンテナ(CRPA)や姿勢情報を持つ受信機はここで見破ります。

なぜGNSSは狙われやすいのか

理由はdBのページで見たとおり: 地表に届くGNSS信号は約−130dBm、熱雑音より20dB以上も下という極端に弱い電波です。相関処理という賢い仕組みでようやく掘り出しているので、その入口を汚すのは物理的に簡単。数ワットの妨害波でも半径数kmの受信機を黙らせられます。

加えて民生用のGPS L1 C/Aは公開仕様・暗号化なし。誰でも同じ信号を作れるので、スプーフィングも原理的に可能です(軍用のPコードは暗号化されており、この点で強い)。「弱くて公開されている」— 便利さと引き換えの構造的な弱点です。

ミーコニングの独特さ — 「本物を再放送する」とどうなるか

ミーコニングは偽信号を作りません。ある場所(例: 屋外)で受けた本物のGNSS信号を、増幅して別の場所(例: 屋内)で再放射するだけ。信号の中身は完全に本物なので、暗号や認証があっても素通りしてしまうのが厄介な点です。

受信機がどうなるかは幾何で決まります: すべての衛星の信号が「再放送アンテナの位置+ケーブル遅延」という共通の経路を通るので、受信機は再放送アンテナがある場所に自分がいると結論し、時計は遅延ぶんだけ遅れます。合法な用途に見える「GPSリピータ」(屋内に電波を引き込む装置)は、まさにこれと同じ原理で、日本では違法です。

逆に言えば検知しやすい面もあります: 動いているはずなのに位置がぴくりとも動かない、時刻が一定量ずれ続ける、といった症状が出ます。

対策 — 受信機・システム側でできること

① 監視して気づく(安価・すぐできる): AGC利得とC/N₀を常時ログする。妨害があるとAGCが急落し、C/N₀が全衛星一斉に下がるので、これだけで異常検知になります。位置・時刻の不連続(ワープ)検出も有効。

② 冗長性で殴る: マルチGNSS(GPS+QZSS+Galileo+BeiDou)とマルチ周波数(L1+L5)。全部を矛盾なく偽装するのは格段に難しく、システム間の不一致が検知シグナルになります。周波数帯マップで見た周波数の広がりが、そのまま耐性になるわけです。

③ アンテナで空間的に弾く: 複数素子アンテナ(CRPA)は「1方向から来る強い信号」にヌルを向けて消せます(ヌルステアリングを動かす → アンテナのページ)。軍用・航空用の定番。安価な代替として、地面側からの信号を遮るチョークリングや設置の工夫も効きます。

④ 他のセンサーと突き合わせる: IMU(慣性)、オドメトリ、気圧高度計との整合チェック。「GNSSは1km移動したと言うがIMUは止まっていると言う」— これで即座に破綻が見えます。自動運転や航空の実装ではこの融合が標準です。

⑤ 信号認証(本命の技術): 送信側が信号に電子署名を入れる方式。GalileoのOSNMA(航法メッセージ認証、運用中)、GPSのChimera、日本のQZSSも信号認証サービス(みちびきの信頼性確保)を提供しています。「この航法メッセージは本物の衛星が作った」と暗号的に検証できるので、スプーフィングへの根本的な回答になります(ただしミーコニングは本物の信号なので、認証だけでは防げません — ④の併用が要ります)。

現実世界での事例と影響範囲

GNSS干渉は現実の運用問題です。空港周辺での航空機のGPS喪失、紛争地域周辺での広域なスプーフィング(船舶が実際とは違う場所に表示される、航空機の航法警報)などが各国当局から報告されており、国際民間航空機関(ICAO)も注意喚起を出しています。近年は民間航空でのGNSS干渉報告が増加傾向にあります。

影響はナビだけではありません。時間と時計のページで見たとおり、携帯基地局・電力網・金融システムはGNSSの時刻に依存しています。GNSSの停止は「地図が使えない」以上に「インフラの時計が狂う」問題であり、各国が地上系バックアップ(eLoranなど)やホールドオーバー用の高安定時計を議論しているのはこのためです。

身近なところでは、車両追跡を逃れるための個人用GPSジャマーが問題になっています。ごく小さな出力でも周囲数百m〜数kmの受信機に影響し、実際に空港の補強システムを妨害した事例(米国のニューアーク空港のケースが有名)もあります。日本でも所持・使用は電波法違反です。