GNSSアンテナ — 空をまるごと受ける工夫
なぜGNSSアンテナは丸くて上向き? 種類の違いと、妨害に強いアレイ/ヌルステアリングまで
GNSSアンテナに求められること
受信機の一番前にいるのがアンテナです(受信機の中身 の①)。GNSSは空全体に散らばった多数の弱い衛星を同時に受けるので、普通の通信アンテナとは違う設計になります。
右円偏波(RHCP)
衛星は右回りの円偏波で送信。地面などで反射すると左回りに変わるので、RHCPアンテナは反射波(マルチパス)を受けにくい。
半球パターン(全天)
地平線から天頂まで、空のどこにいる衛星も拾えるように上半球を広く見る。特定方向に絞らない。
L帯対応・低雑音
1.2〜1.6GHz。信号が微弱なので、アンテナ直下にLNAを入れたアクティブアンテナが定番。
位相中心の安定
高精度用途では「電気的な中心」が動かないことが重要。ミリ単位の測量はここが効く。
アンテナの種類
パッチ(マイクロストリップ)
平らな四角い板。小型・薄型・安価で、スマホ・車載・多くのモジュールの標準。半球パターンを作りやすい。
ヘリカル / QHA(4条ヘリカル)
らせん状の縦長アンテナ。低仰角まで広い半球パターンで、ハンディGNSSやドローンに人気。
チョークリング
同心円の溝(チョーク)で地面反射を強力に除去。基準局・測量など、マルチパスを極限まで嫌う用途の定番。大きく高価。
アレイ(CRPA)
複数素子を並べ、受信パターンを電子的に変える。妨害方向にヌル(感度ゼロ)を向けられる。後述。
「アクティブ」はアンテナにLNAを内蔵したもの、「パッシブ」は素子のみ。長いケーブルを引くならアクティブが有利です(リンクバジェット)。
八木やパラボラは使わないの?
テレビでおなじみの八木アンテナやパラボラは指向性が鋭く、直線偏波。これはGNSSには基本的に不向きです。GNSSは空全体のRHCPを同時に受けたいのに、八木は「一方向だけ・直線偏波」だから、多数衛星を同時に追えず、円偏波も半分損してしまいます。
ただし指向性アンテナが活きる場面もあります: ①特定の1衛星だけを高利得で追う(衛星測距・研究計測)、②妨害・偽装の電波が「どの方向から来ているか」を探る方向探知、③電波暗室やアンテナ測定。つまり「測位用の常用アンテナ」ではないが、妨害源を突き止める道具としては指向性アンテナも登場します。
妨害に強いアンテナ — アレイと適応制御(CRPA)
GNSS信号はとても弱いので、強い妨害波(ジャミング)を浴びると簡単に潰されます(妨害と偽装)。そこで、複数のアンテナ素子を並べたアレイアンテナ(CRPA: Controlled Reception Pattern Antenna)で、受信の“感度の地図”を電子的に変えるのが、耐妨害の王道です。
ヌルステアリング
妨害波が来る方向に感度ゼロの穴(ヌル)を向け、妨害だけを消す。衛星方向の感度は残す。N素子でN−1個の妨害源を無効化できる。
ビームフォーミング
逆に衛星の方向へ利得を集中させ、弱い信号を強く受ける・高精度化する。各衛星へ個別ビームを向ける方式も。
STAP / SFAP
空間(方向)だけでなく時間・周波数も併せて使い、広帯域妨害や複雑な干渉を除去する空間‐時間/空間‐周波数適応処理。
デジタルビームフォーミング
各素子をデジタル化し、ソフトで自在にパターン合成。全衛星に同時ビーム+全妨害にヌル、といった高度な制御が可能。
軍用は7素子CRPAが有名ですが、近年は小型・低コスト化が進み、民生(自動運転・ドローン・重要インフラ)への展開が研究されています。
ヌルステアリングを動かす
真上から見た空(中心=天頂、外周=地平線)。緑が衛星、赤が妨害源です。妨害源の方位を動かし、ヌルステアリングと素子数を変えて、受信できる衛星がどうなるか見てください。
模式図です。実際のヌルの形・深さは素子配置やアルゴリズムで変わります。要点は「単一アンテナは妨害の方向を選べず全滅、アレイは妨害だけを消せる」こと。素子が多いほどヌルを鋭くでき、巻き添えの衛星が減ります。
研究レベルの話 — 偏波・到来方向・スプーフィング検知
スプーフィング(偽信号)対策にもアンテナが効きます。本物の衛星信号は上空から右円偏波で届きますが、地上の偽装装置からの信号は到来方向や偏波が不自然になりがちです。そこで研究が進むのが:
① 二重偏波アンテナで右回り/左回りの比を見て偽物を見分ける。② アレイで到来方向(AoA)を推定し、「全部の衛星が同じ一点(偽装装置)から来ている」不自然さを検知する。③ デジタルビームフォーミングで全可視衛星に個別ビームを張り、妨害・偽装に同時対処する。④ これらCRPA/適応アレイの小型化・低コスト化・多周波対応で、軍用技術を民生の自動運転や重要インフラへ広げる——といった方向です。
アンテナは「ただ電波を受ける板」ではなく、耐妨害・耐偽装の最前線でもあるわけです(→ 妨害と偽装、方向の表し方は 座標系(ENU))。