座標系 — LLH・ECEF・ENU・RTN

「どこか」を数字で表す枠組み。GNSSとLEOで使う代表的な座標系と、その使い分け・変換

座標系は「原点と軸の取り決め」

同じ場所でも、どこを原点に、どの向きを軸にするかで数字は変わります。GNSSでは目的に応じて座標系を使い分け、必要に応じて変換します。大きく4種類を押さえれば十分です。

LLH 測地座標

緯度・経度・高さ。地図やGNSSが出力する“人間向け”の表現。楕円体(WGS84)が基準。

ECEF 地球中心直交

地球の中心を原点にしたX/Y/Zの直交座標。GNSSの計算の土台。地球と一緒に回る。

ENU 局地座標

地表の一点を原点に、東・北・上。方位や仰角、「東に何m」を扱う。

RTN 軌道座標

衛星を原点に、動径・進行方向・軌道面法線。軌道誤差や衛星の相対運動の記述に。

4つの座標系を1枚で

ECEF(地球中心 X/Y/Z) ENU(地表点 東/北/上) RTN(衛星 動径/進行/法線)

ECEFは地球中心の1つ。ENUは地表の各点ごとに向きが変わる。RTNは衛星に貼りつき、衛星と一緒に動く(軌道に沿って三脚が回っていく様子に注目)。図は模式で、縮尺・軌道高度は実際とは異なります。

① 測地座標 LLH — 緯度・経度・楕円体高

別名 =測地座標緯度経度高geodetic (φ, λ, h)BLH
φ 緯度 楕円体の法線が赤道面となす角(地心緯度とは別)
λ 経度 本初子午線からの東西の角
h 高さ 楕円体からの高さ(=楕円体高)

GNSSが最終的に出力し、地図が使う“人間向け”の座標。基準は回転楕円体 WGS84(長半径 a=6,378,137 m、扁平率 1/f=298.257223563)。注意点は高さで、LLHの h は楕円体高であり、私たちが言う「標高(平均海面=ジオイド基準)」とはずれます(→ 座標と高さの基礎)。

② ECEF — 地球中心・地球固定の直交座標(WGS84)

別名 =地球中心地球固定座標ECEF (X, Y, Z)ECR
X 赤道面内・本初子午線の向き(緯度0,経度0)
Z 自転軸(北極)の向き
Y 右手系を完成させる向き(経度90°E)

原点は地球の重心。地球と一緒に回るので、地上の建物は常に同じX/Y/Zになります。GNSSは衛星の位置も受信機の解も、まずこのECEFで計算します。最後にLLHへ変換して表示します。

LLH→(公式で一発)→ECEF →(Bowring等の反復)→LLH

LLH→ECEFは閉じた式で計算でき、ECEF→LLHは反復(または近似式)で求めます。※ECI(地球中心・慣性系。自転しない)とは別物。軌道計算はECIで行い、時刻と地球回転角でECEFへ変換します。

③ ENU — 地表の一点を原点にした局地座標

別名・仲間 =局地水平座標East-North-UpNED(北・東・下)NEU(北・東・上)局地接平面
E 東(East)
N 北(North)
U 上(Up=その点の鉛直・楕円体法線)

地表の基準点を原点に、その場の東・北・上を軸にとる座標。人にとって直感的で、衛星の方位角・仰角、「基準点から東に何m・北に何m」、局地的な誤差の表現に使います。ECEFのベクトルを、基準点の緯度・経度で決まる回転行列で回すとENUになります。分野で軸の並びが違い、航空・ロボットではNED(北・東・下)、ご指定のNEU(北・東・上)も同じ局地座標の並べ替えです。

④ RTN — 衛星を原点にした軌道座標(LEOで活躍)

別名・ほぼ同義 =Radial-Tangential-NormalRSWRIC(Radial-In track-Cross track)LVLH系
R 動径(Radial)=地球中心から衛星への向き
T 進行方向(Tangential/In-track)=軌道に沿う向き(≒速度)
N 法線(Normal/Cross-track)=軌道面に垂直(角運動量の向き)

衛星に貼りついた座標。位置ベクトル r と速度 v から R=r/|r|N=(r×v)/|r×v|T=N×R で作ります。軌道誤差や衛星どうしの相対運動を「動径方向・進行方向・軌道面外」に分けて見るのに最適で、LEO-PNTや精密軌道決定、編隊飛行で多用されます。

豆知識: 測距(擬似距離)に効くのは主に動径方向(R)の軌道誤差で、進行方向(T)や軌道面外(N)の誤差は幾何的に効きにくい――誤差をRTNで分けると「どの成分が測位に効くか」が見通せます。呼び方はRSW・RICなどほぼ同義(軸の定義が少しずつ違う流儀あり)。

変換の地図

LLH 緯度経度高 ECEF 地球中心直交 ENU 局地 (基準点の φ, λ で回転)
ECI 慣性系 ECEF (時刻・地球回転角) 軌道 r,v RTN 衛星

GNSSの中身では、衛星軌道は慣性系ECIで解き→ECEFへ、受信機の解はECEFで求め→LLHで表示、ユーザ向けの方位・仰角はENUで、というように座標系を渡り歩いています。

早見表

座標系原点主な用途GNSS/LEOでの登場
LLH—(楕円体基準)φ・λ・h地図表示・人間向けの位置受信機の最終出力
ECEF地球重心X・Y・Z(地球固定)位置計算の土台衛星位置・測位解の計算
ENU/NED地表の基準点東・北・上(下)方位・仰角・局地の変位可視衛星の見え方、誤差の表現
RTN衛星動径・進行・法線軌道誤差・相対運動精密軌道決定、LEOの編隊・幾何

用語のまとめは 用語集 にも。高さ(楕円体高と標高)の詳しい話は 座標と高さの基礎 へ。