LEO-PNT — 低軌道測位

GNSSより桁違いに低い高度を飛ぶ衛星で測る。信号が強く、妨害に強い次世代PNTの本命

アイデア — 衛星を「うんと低く」する

GPSなどのGNSS衛星は高度約20,200km(中軌道 MEO)を回っています。遠いぶん信号は地上で極端に弱くなり、妨害・偽装の的になります。そこで発想を変え、高度数百〜千数百kmの低軌道(LEO)に測位衛星を置くのが LEO-PNT(Low Earth Orbit PNT)です。Starlinkが飛んでいるのと同じくらいの高さです。

近いと何が良いのか? 距離が縮むぶん信号が桁違いに強くなり、屋内にも届きやすく、妨害しにくくなります。さらにLEO衛星は空を速く横切るので、幾何配置がどんどん変わり、測位解の収束が速く、偽装も見破りやすくなります。下で高度を変えて、信号強度の違いを見てみましょう。

高度と信号強度 — MEO(GNSS) と LEO をくらべる

LEOの高度 550 km

真上にある衛星までの距離で、自由空間の距離減衰(距離の2乗に反比例)を単純比較した教材用モデル。実際はアンテナ利得や大気の影響も加わります。

+31 dB
MEO(20,200km) にくらべた LEO の信号の強さ
= 電力比約1400倍
MEOまでの距離20,200 km
LEOまでの距離550 km
空を横切る速さ速い

長所と短所

信号が強い

距離が1/20〜1/40 → 電力で数百〜千倍。屋内にも届きやすい。

妨害・偽装に強い

強い信号は潰しにくく、速い幾何変化と多数機で偽装を検知しやすい。

収束が速い

衛星が速く動き幾何がすぐ変わるので、高精度解に早く到達。

大きなドップラー

速度が速く周波数変化が大きい=それ自体を測位の手がかりにできる。

たくさんの衛星が要る

1機が見える時間が短いので、全球カバーには数百機規模の群れが必要。

軌道の維持

低軌道は大気抵抗で高度が下がる。定期的な軌道維持・更新が必要。

まだ整備途上

専用のLEO-PNTは実証・構築の段階。GNSSほどの成熟度はこれから。

基準時刻はやはり必要

衛星の時計や軌道の管理は必須。GNSSや地上局と連携する設計が多い。

なぜ妨害・偽装に強いのか — 「強さ」だけではない

LEO-PNTの耐性は信号の強さだけで決まるのではなく、いくつかの理由が重なっています。

① 信号が強い

近いぶん桁違いに強く、ジャミングでかき消しにくい。

② 幾何が速く変わる・多数機

衛星が速く動きドップラーも大きい。つじつまの合った偽装を続けるのが難しく、多数の衛星で相互チェックできる。

③ 信号仕様が非公開・認証つき

多くのLEO-PNTは信号の仕様が公開されず、暗号による認証が施される。攻撃者は本物そっくりの偽信号を作れない。

④ GNSSと独立

物理も系統も別。GNSSと同時に破るのは極めて難しく、互いのバックアップになる。

特に③がGNSSとの大きな違いです。GNSSの民生信号は相互運用のため仕様書(ICD)が完全に公開されており、誰でも同じ形の信号を合成できます(だからスプーフィングが成立しやすい)。一方、多くのLEO-PNTは仕様が非公開で暗号認証されるため、偽装が困難です。ただし本質的な強さは「隠すこと」自体ではなく暗号による認証にあります(GNSS側もQZSSの信号認証などで対抗しています)。

おもな取り組み

専用・実証中

Xona Space Systems(PULSAR)

測位専用のLEO衛星群を構築中。GPS互換の考え方でより強く・認証つきの信号を目指す。実証衛星を打ち上げ済み。

米国・専用

TrustPoint

米国のスタートアップ。商用の専用LEO-PNTを構築中。暗号化・認証つきの信号で耐妨害・耐偽装を狙う。

商用・運用中

Iridium STL(Satelles)

既存のIridium 66機のLEO衛星から時刻・測位信号(STL)を放送。屋内浸透・耐妨害が強みで、時刻同期のバックアップに実用化。

中国・民営

CENTISPACE(中国)

中国の民間(未来導航)が進めるLEO測位補強コンステレーション。実証衛星を打ち上げ済み。

中国・国営

China SatNet(国網)

中国の国営による大規模LEOコンステレーション。主に通信だが、PNTも視野に入れた国家プロジェクト。

計画・実証

ESA LEO-PNT / 各国の構想

欧州(ESA)が軌道実証を計画。中国なども大規模LEO群でのPNT補強を構想。GNSSを補完する世界的な流れ。

日本・研究/実証

JAXA / アークエッジ・スペース

日本でもLEO-PNTの研究・実証が動いている。JAXAが次世代測位技術の研究開発を進め、超小型衛星のスタートアップ アークエッジ・スペース が小型衛星コンステレーションによる測位への取り組みを表明。既存の QZSS(みちびき) と組み合わせた強靭なPNTを見据える。

韓国・機関

KARI / KASA(韓国)

韓国の宇宙機関 KARI(航空宇宙研究院)と、2024年新設の KASA(宇宙庁)がLEO-PNTの研究・整備を推進。地域測位 KPS と併せた構想。

流用・研究

Starlink 等の流用

通信用LEO(Starlink/OneWeb)の電波を測位に流用する研究も活発。詳しくは 信号機会測位 のページへ。

MEO(GNSS) と LEO のちがい

項目GNSS(MEO)LEO-PNT
高度約 20,200 km約 350〜2,000 km
地上での信号強度非常に弱い(約−130dBm)数百〜千倍強い
1機が見える時間数時間数分〜十数分
必要な衛星数1系統 約24〜30機数百機規模
妨害・偽装耐性弱い強い
成熟度成熟(運用中)整備・実証段階

LEO-PNTはGNSSを置き換えるより補完・補強する位置づけで語られることが多い手段です。全体像は GNSSの代替(概要) を参照。