時間と時計
GNSSは「時計のシステム」— 時間の誤差が距離の誤差になる世界を体感する
時間誤差 → 距離誤差 ものさし(× 光速)
光は1ナノ秒に約30cm、1マイクロ秒に約300m、1ミリ秒に約300km進む。GNSSの世界では「時計の精度」がそのまま「位置の精度」。cm級測位(RTK)は0.1ns級の位相測定の世界。
時計ドリフトレース — 合わせた時計はどれだけ狂っていくか
安定度は代表値(時計の誤差は温度などで変わるため、実際は一直線ではない)。「相対論効果」は、もしGPS衛星の時計を補正しなければ起きるはずのズレ — 1日で約38μs、距離にして約11km。GPSは相対性理論なしでは1日で使い物にならなくなる。
3つの時刻系 — いま何時?(あなたのPCの時計基準)
GPS時刻はうるう秒を挿入しないため、UTCとの差(現在18秒)が航法メッセージ(ΔtLS)で放送される。受信機はそれを使ってUTCの時刻表示を作る。
「1秒」の定義と原子時計のしくみ
現在の「1秒」は天文ではなく原子で定義されています: セシウム133原子が9,192,631,770回振動する時間。原子のエネルギー準位間の遷移周波数は、どこの誰が測っても同じという究極の物差しです。原子時計は、水晶発振器の周波数をこの原子の共鳴に絶えず照らして矯正する装置で、安定度は10⁻¹³〜10⁻¹⁵級(数百万年に1秒)に達します。
GNSS衛星はセシウムやルビジウムの原子時計を複数台積んでいます。それでも完璧ではないので、ズレの係数(af0/af1/af2)を航法メッセージで放送し、管制局が毎日監視・更新しています。
相対性理論とGPS — 補正しないと1日で11km狂う
GPS衛星の時計には相対論の効果が2つ効きます。特殊相対論: 秒速3.9kmで動くため、地上より時計が遅れる(約−7μs/日)。一般相対論: 高度2万kmは地上より重力が弱いため、時計が速く進む(約+45μs/日)。差し引き+38μs/日、距離に換算すると1日で約11kmもの誤差になります。
そこでGPS衛星の時計は、打ち上げ前にわざと基準周波数10.23MHzを約0.00455Hzだけ低く調整してあります。軌道に乗ると相対論効果でちょうど10.23MHzに見えるという設計。「相対性理論が日常の役に立っている」最も有名な実例です。
GPS時刻・UTC・うるう秒
UTCは原子時計の時間(TAI)をベースに、地球の自転のふらつきに合わせてうるう秒を挿入する時刻系です。一方GPS時刻は1980年1月6日を起点に、うるう秒を入れずに連続で刻みます。開始時点でTAIと19秒差だったので、常に TAI − GPS = 19秒。うるう秒が積み重なった結果、現在は GPS − UTC = 18秒 です。
うるう秒の予定は航法メッセージ(LNAVならSF4のΔtLS/ΔtLSF、CNAVならMT33)で予告されます。ちなみに、うるう秒は運用の厄介さから2035年までに廃止される方向で国際合意されています。
受信機の安い時計でよい理由(復習)
ドリフトレースの通り、受信機のTCXOは1秒で1μs級=300m級もズレる時計です。それでも測位できるのは、時計誤差が全衛星の擬似距離に共通で乗るため、未知数として位置と一緒に連立方程式で解けてしまうから。おかげで受信機は数百円の水晶でよく、しかも解いた結果として受信機は原子時計並みの正確な時刻を手に入れる — GNSSが「時刻配信インフラ」(携帯基地局や電力網、金融取引の時刻同期)としても使われる理由です。
詳しくは擬似距離・ドップラーのページで。