スペクトルで見るGPS信号

スペクトルアナライザーにGPSを映すとどう見えるか — 「山」ではなく「雑音に沈んだ台形」

スペクトラム表示 — 周波数ごとのパワー

見る信号:
信号の強さ 通常

横軸=周波数、縦軸=パワー[dBm]。実機のスペアナは白い掃引線が左から右へ走り、その軌跡が波形になります。数値は教材用の目安です。

スペアナで見たGPSの「見どころ」

信号は雑音に埋もれている

地表のGPSは約−130dBmで、熱雑音床(−111dBm前後)より約20dB下。ふつうに見ると雑音と区別がつきませんdBのページの通り。

とがった山ではなく「なだらかな台形」

拡散符号(BPSK)のスペクトルは sinc² 形。C/Aコードは主ローブ幅約2MHzのなだらかな盛り上がりで、FM放送のような鋭いピークにはなりません。

幅の違う信号が重なっている

L1には狭いC/A(±1MHz)と、その下に広いP(Y)(±10MHz)が同じ中心周波数で重なる。台形の中に、より幅広い裾が同居して見えます。

見るには工夫が要る

そのままでは雑音に沈むので、実務では長時間の平均化や、受信機の相関後(処理利得)で初めて「盛り上がり」が確認できます。

GPS信号のスペクトル諸元(目安)

信号中心周波数変調/符号レート主ローブ幅スペクトルの形
L1 C/A1575.42 MHzBPSK 1.023 Mcps±1.023 MHzsinc²(なだらか)
L1 P(Y)1575.42 MHzBPSK 10.23 Mcps±10.23 MHz幅広いsinc²
L1C (新)1575.42 MHzBOC(1,1)中心が凹み左右に山2つのこぶ
L51176.45 MHzBPSK 10.23 Mcps±10.23 MHz広帯域sinc²
(参考)FM放送76〜95 MHzFM±100 kHz程度鋭いピーク

符号レートが速いほどスペクトルは横に広がります(信号の構造周波数帯マップ参照)。L1CのBOC変調は中心を避けて左右にパワーを寄せる「2こぶ」形で、既存C/Aと同じ周波数に共存できます。

なぜ拡散信号は sinc² の形になるのか

スペクトル(周波数ごとのパワー分布)は、時間波形をフーリエ変換したものです。GPSのC/Aコードは幅 Tc ≈ 0.98μs の四角いチップの列(BPSK)。1個の四角いパルスのフーリエ変換は sinc 関数(sin(x)/x)で、パワーはその2乗の sinc² になります。

その主ローブ(中央の盛り上がり)の幅は「チップレートの2倍」= 約2MHz。信号の構造で見た「チップが速いほど帯域が広い」が、スペクトル上では「台形の裾が横に広がる」として現れます。鋭いピークにならないのは、情報を1つの周波数に集中させず、わざと広い帯域にばらまいている(スペクトラム拡散)からです。

「雑音に埋もれた信号」をどう可視化するか

単発の掃引ではGPSは雑音に完全に隠れています。実際に盛り上がりを見るには:

① 長時間の平均化(トレース平均・RBWを狭く): ランダムな雑音は平均すると平らになり、常に同じ形の信号成分だけがうっすら浮かびます。それでも数dBの微妙な盛り上がりです。

② 相関後に見る: 受信機のように既知のPRNコードを掛けて逆拡散すると、広く薄かった信号が中心周波数に「畳み込まれて」鋭いピークに戻ります。これが処理利得(約43dB)で、擬似距離のページの相関ピークがまさにこれです。

つまり「スペアナで生を見る」と「受信機で相関して見る」はまったく違う絵になります。前者は台形の気配、後者は鋭いピーク。

妨害・干渉もスペアナに映る

スペアナはGNSSの健康診断にも使われます。近くにジャマーがあれば、GNSS帯に不自然に強い山(連続波妨害なら鋭いピーク、掃引妨害なら動く山)が見えます。本来ほぼ平らな雑音床に「何か強いものが乗っている」と気づけるわけです。空港や基準局の監視では、こうしたスペクトル監視で干渉を早期発見しています。