L1 C/A信号の構造
搬送波 × PRNコード × 航法メッセージ — 3つの部品がどう重なって1つの電波になるか
衛星の中の信号生成(ブロック図)
⊕はmod-2加算(XOR)、⊗は乗算。データもコードも「0/1」を「+1/−1」に読み替えれば、どちらも乗算として扱える。すべての周波数・レートは衛星の原子時計1つから作られている(10.23 MHz基準: ×154=L1、÷10=C/Aコード)。
3層の波形をズームで見る
スケール感 — 3つの時間の世界
| 層 | 速さ | 1単位の長さ | 電波にすると | 役割 |
|---|---|---|---|---|
| 航法メッセージ | 50 bps | 1ビット = 20 ms | 約 6,000 km | 意味(軌道・時刻)を運ぶ |
| PRNコード | 1.023 Mcps | 1チップ ≒ 0.977 μs | 約 293 m | 衛星の識別+距離の目盛 |
| 搬送波 | 1575.42 MHz | 1周期 ≒ 0.635 ns | 波長 約 19 cm | 電波として空を飛ぶ・位相測定の物差し |
換算: 1ビット = C/Aコード20周期 = 20,460チップ = 約3,150万搬送波サイクル。1チップ = 1,540搬送波サイクル。「粗い目盛(コード)で大づかみ→細かい目盛(搬送波位相)で精密に」という測位の階層構造がここから生まれる。
なぜコードを掛けて「拡散」するのか
50bpsのデータをそのまま送るなら帯域は約100Hzで足ります。それをわざわざ1.023Mcpsのコードで置き換えて帯域を約2MHzに広げる(スペクトラム拡散)のには、3つの理由があります。
(1) 雑音の下から信号を掘り出せる: 地上に届くGPS信号は約−130dBm、熱雑音より20dB以上も弱い。しかし受信機がレプリカコードで相関を取ると、コードの規則性が揃った成分だけが積み上がり(処理利得 10log₁₀(1023×20) ≒ 43dB)、雑音の中からピークが浮かび上がる。擬似距離のページの相関実験がまさにこれ。
(2) 全衛星が同じ周波数を共用できる(CDMA): 衛星ごとに違うGold符号を使う。Gold符号同士は相関がほぼゼロなので、レプリカに一致する衛星だけが浮かび上がり、他衛星は雑音のまま。「PRN番号」とはこの符号の背番号。
(3) 距離の目盛になる: チップの並びは時刻の目盛そのもの。どこまでコードがずれて届いたかが伝搬時間=距離になる。
BPSKと位相 — 「波の基礎」とのつながり
BPSK(二位相偏移変調)は、符号が+1なら搬送波をそのまま、−1なら位相を180°反転して送る方式です。ズーム③で、チップの境目で波がぷつっと反転しているのがそれ。波の学習ラボで見た「位相」が、ここでは情報を運ぶスイッチとして働いています。
受信機側では、この位相反転を取り除いて(コードを掛け直して)搬送波を復元し、その位相をPLLで追いかけます。搬送波の波長は19cm — この位相まで読むのがRTKなどcm級測位の入口です。
GPSとQZSSではどう違う?
L1 C/Aに関しては、この構造はGPSもQZSSも完全に同じです。違いは使うGold符号の番号だけ: GPSがPRN 1〜32、QZSSがPRN 193〜202を使います。だから受信機はソフトの変更なしにQZSSを「33機目以降のGPS」のように扱えます — これがQZSSの互換設計の核心です。
なお同じL1でも、新しい信号L1C(CNAV-2)はBOC変調というより凝った方式を使います。航法メッセージのページでメッセージ構造の違いも見てください。